下記のように、第14回 場の言語・コミュニケーション研究会定例会を開催いたします。ふるってご参加ください。
日時 平成27年4月18日(土)午後2時~午後5時半
場所 早稲田大学 8号館 808号室
決まりましたらトップページにてお知らせいたします
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発表者 奥川育子先生
テーマ 「物語談話における談話展開と視点」
発表要旨
本研究の目的は自然な日本語の物語談話(Narrative)とはどのようなものなのかを明らかにすること、また、日本語上級者であっても習得が難しい「一つの構造体としてのまとまりを構成する」談話展開技術がどのようなものか明らかにすることである。そのため、日本語母語話者と学習者に言葉のないアニメーションのストーリーを書いてもらった物語談話を認知機能言語学の観点から分析し、それぞれの談話における談話展開をつかさどる文法(本発表では「視点」に着目)と談話構造がどのようなものなのかを示す。
本研究の結果、日本語母語話者は新登場(人)物を談話に導入するとき、その(人)物に一時的に注目が集まるように、新登場(人)物をガでマークし、注視点をそこに移動するが、視座は談話全体を通して、一貫して主人公に置いており、物語の談話展開がスムーズに展開していることが明らかになった。
一方、日本語学習者は母語(中国語、英語)にかかわらず、上級レベルになっても注視点の新登場(人)物への移動と主人公(ピングー)への視座の固定をおこっているものはほとんどおらず、視座の主人公への固定は上級レベルにとっても習得が難しいことが判明した。中級においては、視座を判定する手がかりを使用しないものが多いということがわかった。
以上より、日本語母語話者の物語談話の特徴である「注視点の登場(人)物への移動」と「視座の主人公への固定」は上級学習者にとっても習得が難しいものであり、この注視点と視座に関する学習者と母語話者との差が、学習者の談話の不自然さの要因の一つになっていると考えられる。また、日本語母語話者(「主観的事態把握」)と学習者の事態把握(「客観的事態把握」)の違いが物語談話の中に顕著に表れていることも明らかになり、学習者の母語(英語、中国語)の談話でもそのような傾向にあることが示された。
本研究より明らかになった日本語母語話者と学習者、非母語話者の談話の差は「場の理論」(井出祥子(2006)『わきまえの語用論』大修館書店、岡 智之(2013)『場所の言語学』ひつじ書房)から説明できると考えられる。場により、日・英・中国語の文法および談話との関係を、具体的かつ実証的に解明できるだろう。