下記のように、第19回 場の言語・コミュニケーション研究会定例会を開催いたします。ふるってご参加ください。
日時 平成27年12月20日(日)午後1:30~午後4:30
場所 早稲田大学 9号館5階第2会議室
(場所がいつもと異なります。ご注意ください。)
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発表者 重光由加先生
テーマ 「会話に対する意識とその会話への表出:日・英男性初対面の談話を分析して」
発表要旨
本発表では、男性の初対面の談話に焦点をあて、1)英語母語話者と日本語母語話者は何を心がけて会話を行っているのか、2)その心がけが実際のやりとりでどのように表出されているかを分析し、それぞれの相違の根底にある文化・社会的背景を考察する。
初対面会話は、新しい人間関係を構築する場として、お互いがどのような人物であるかを示し合うという特徴を持つ。お互いがどのような人物であるかを知るのは、自己開示としての情報だけに限らない。ことばのやりとりの際に無意識に表出する会話のスタイル(ターン・テイキングのスタイル、発話量、質問―応答など)も会話の相手がどのような人物なのかを知る手掛かりになる。FitzGerald(2003)は、会話のスタイルは、母語話者の文化と密接に関係するため、異文化間コミュニケーションではさまざまな問題の原因となっていることを指摘している。しかも、その問題は、情報の誤解ではなく、人間関係への悪影響を及ぼすと述べている。
本発表では、男性による初対面の会話データを用いる。英語のデータとしては、Inner Circleの英語文化圏に共通する部分に注目し、イギリス、アメリカ、オーストラリアで収録した。また、日本語のデータは関東地方在住者の会話を収録した。会話は3人の初対面会話を各30分ほど収録した。会話参加の条件には、お互い初対面であること、年齢は22歳以上であること、他国からの移住者ではないことなどを含めた(データは津田他2015と同じ)。
1)会話参加者に対するフォローアップインタビューの分析は、全会話データのうち母語話者会話に参加したイギリス人25人、アメリカ11人、オーストラリア人15人、日本人25人を対象とした。インタビューからは、英語母語話者が初対面の人に対して、話し手自身が知的関心を持っていることを示すことを心がける傾向があったのに対して、相手のリードに合わせたり、相手の話を聞いたりすることを心がける傾向があった。
また、英語母語話者は意識的な会話を行っているが、日本語母語話者には特にそのような意識は持たないまま会話が行われていないことも浮かび上がった。
2)初対面の談話の分析では、主に応答要求表現とそれに対する応答に焦点をあてる。英語母語話者は、情報を引き出すような応答要求を行い、他の会話参加者から情報を引き出し、自己開示を促す方法で会話を行い、インタラクティブな会話を作る。一方、日本語母語話者は、応答要求は英語母語話者より多くみられるが、情報を引き出す応答要求はあまり多くなく、情報提供者自身が、聞き手に同意を求めたり、確認の応答を求めたりしたりながら会話をすすめていることが見られた。
最後に、日・米異文化接触会話の失敗例のケーススタディとして、会話の意識の違いや、それぞれの文化・社会的規範に基づいた応答要求表現と回答について、どのような問題が生じているかも紹介する。
FitzGerald, H. (2003). How different are we? Spoken discourse in intercultural communication. Clevedon: Multilingual Matters. [村田泰美(監訳)大塚容子・重光由加・大谷麻美(訳)(2010) 『文化と会話スタイル―多文化社会・オーストラリアに見る異文化間コミュニケーション―』ひつじ書房]
津田早苗他 (2015)『日・英語談話スタイルの対照研究―英語コミュニケーション教育への応用』ひつじ書房 (以上)