下記のように、第23回 場の言語・コミュニケーション研究会定例会を開催いたします。ふるってご参加ください。
日時 平成28年5月14日(土)午後2:00~午後5:00
場所 早稲田大学 8号館607室
(いつもと同じ建物ですが、階が異なります。ご注意ください)
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発表者 山口征孝先生
講演タイトル 「場の理論と複雑系科学の接点を探る:英米の語用論を中心に」
要旨 (5/10内容を更新)
本発表の目的は場の理論と複雑系科学の接点を相互作用の分析に焦点を絞り探ることである。特に場の理論における「共創」という考え方と複雑系科学における「自己組織化」(self-organization)の整合性に注目する(清水 2000; Larsen-Freeman and Cameron 2008)。そることでなぜ場の理論が語用論的関心に有益であるかという疑問にも答えることを意図する。
まず、場の理論と複雑系科学の双方との関連が深いScollon and Scollon (2004)、Kadar and Haugh(2014)、そしてHanks (2016)を呈示する。Scollon and Scollon (2004; 2012)は西田哲学より「歴史的身体(historical body)」という概念をブルデューの「ハビトゥス」の代替として採用している。Kadar and Haugh(2014)は場の理論から複雑系体系(complex system)を経てArundale流会話分析への道筋をたどっている。最後にHanks (2016)は「場」及び「場所」概念の完全な翻訳の不可能性を認識しつつ、context概念の洗練化に「場」及び「場所」概念を応用し、三層(orders)からなる場の理論の枠組みを提出している。Hanksの枠組みは複雑系科学における「システムとコンテクストの相互連結性」(Larsen-Freeman and Cameron 2008)と整合する(cf. 清水2000「自他非分離」)。次に、実証面では、井出(2016)及び藤井(2016)から採られたデータの一部を再考する。そうすることで、複雑系科学と場の理論は相補的であるだけでなく、一貫性があると主張する。具体的には、共創の過程で起こる「相互ひき込み現象」は自己組織化の過程で起こる「共適応(co-adaptation)」に対応することを論じる(更に、時間があればテレビから収録された日本語による自然会話における共創現象も示す)。
最後に、場の理論は従来の複雑系科学の枠組みにはない独創的な概念化を提供しつつ諸科学と接合している点を論じる。そのような概念化の一つに、「自己中心的領域」と「場所的領域」の同時の活(はたら)き(「二重生命現象」)がある(清水2000)。この概念化に基づく相互行為分析(井出2016)は、場の語用論を他の学問分野と連携した広い学際的研究のコンテクストに置くことを意味する。言い変えると、場の語用論は、反証可能性に開かれた本質的に健全な学問的営為である。今後の課題として、言語学以外の学際的アプローチにより検証可能な仮説の提出をすることが場の語用論者に求められることであると提起する。
主要参考文献
井出祥子 (2016).グローバル社会へのウェルフェア・リングイスティックスとしての場の語用論―解放的語用論への挑戦―. 社会言語科学18(2): 3-18.
清水博(2000). 共創と場所 清水博・久米是志・三輪敬之・三宅美博編 場と共創 NTT出版.
藤井洋子(2016).日本人のコミュニケーションにおける自己観と「場」-課題達成談話と人称詞転用の分析より―. 藤井洋子・井出祥子(編)コミュニケーションのダイナミズム ひつじ書房.
Hanks, William F. (2016). Basho: A theory of communicative interaction. Paper presented at The Third International Workshop on Linguistics of BA. Waseda University, Tokyo, Japan.
Kadar, Daniel, & Haugh, Michael (2014). Understanding politeness. Cambridge: Cambridge University Press.
Larsen-Freeman, Diane, & Cameron, Lynne. (2008). Complex systems and applied linguistics. Oxford: Oxford University Press.
Scollon, Ron, & Scollon, Suzie W. (2004). Nexus analysis and the emerging internet. London: Routledge.
Scollon, Ron, Scollon, Suzie, W., & Jones, R. (2012). Intercultural communication: A
discourse approach. Oxford: Wiley-Blackwell.
以上